求人票の抽象的な言葉を疑う|「笑顔が絶えない職場」の読み方
ここからが本題です。
漫画で読んだ考え方を、実際の求人票に当てはめてみます。
漫画の中では、企業の求人票のアピール部分も、
中古物件の売り文句と同じ構造だと説明されます。
こんな言葉を、見たことがないでしょうか。
- 若者中心で笑顔が絶えない職場
- 個性が生かせる
- チャンスは無限大
私も、実際にこういう触れ込みを求人広告で見たことがあります。
悪い言葉はひとつも入っていません。
でも、桜木の見方で読み直すと、風景が変わります。
▲ 抽象的な言葉だけが目立ち、月の残業時間や昇給の条件が書かれていない求人票のイメージです(※イメージです)。
「アットホームな職場」が危険と言われる理由
この話、実は漫画の中だけの話ではありません。
転職の現場でも、同じ指摘がされています。
退職学研究家の佐野創太さんは、ダイヤモンド・オンラインの記事で、
求人票の「形容詞の罠」について書いています。
「アットホーム」「フラット」といった形容詞は主観的で曖昧なので、
受け取る人によって意味が真逆になる、という指摘です。
たとえば
「社員がSNSで交流し、毎月飲み会がある」という同じ事実が、
ある人にはアットホームな社風に見え、
別の人にはプライベートがない社風に見える。
同じ会社、同じ事実。
それなのに、形容詞にした瞬間に、まったく違うものになってしまうわけです。
だから佐野さんは、「動詞や名詞、数字といった定量的な情報」から判断することを勧めています。
ダイヤモンド・オンライン「『アットホームな社風』の求人が危険な理由、
“形容詞の罠”がミスマッチ転職を招く」(佐野創太/2023年3月12日公開)
漫画と、転職の専門家。
まったく別のところから、同じ結論が出てきている。
ここが私には面白かったところです。
当たり前をわざわざ言う会社は、何を白状しているのか
もう一歩だけ踏み込みます。
「笑顔が絶えない職場」というのは、
いい会社であれば当たり前のことですよね。
その当たり前を、わざわざ大きく書いている。
ということは、その会社では当たり前ではない、と白状している可能性がある。
パパスタわざわざ言う、というのは、それが足りていないサインかもしれません。
もちろん、断定はできません。
本当にいい職場が、素直にそのまま書いているだけの場合もあります。
ただ、疑うきっかけとしては、じゅうぶん使えます。
では、何を見ればいいのか。
私はこう整理しました。
| 見るべきでないもの(形容詞) | 見るべきもの(名詞と数字) |
|---|---|
| アットホームな職場 | 月の平均残業時間 |
| 風通しがいい | 有給休暇の取得日数 |
| 成長できる環境 | 3年後に任される具体的な業務 |
| 若手が活躍中 | 直近1年の入社人数と退職人数 |
| チャンスは無限大 | 昇格までの標準年数と評価基準 |
左の列は、読んでも何も分かりません。
右の列は、読めば絵が浮かびます。
その差が、そのまま情報の中身の差です。
▲ 求人票の抽象的な言葉を消すと、何が残るのか。名詞と数字で読み直す手順の図です。
私が求人票で最初に見る3つの数字
もう少し実用的な話をします。
私が求人票を読むとき、最初に探す数字は3つです。
1つ目は、月の平均残業時間です。
これが書かれていない求人票は、書けない事情があるのかもしれない、と考えます。
書いてあっても「20時間程度」のように幅がぼかしてあるときは、
その「程度」がどこまで伸びるのかを面接で聞く材料にします。
2つ目は、直近1年で何人入って、何人辞めたかです。
この数字は求人票にはまず載っていません。
だからこそ、面接で聞く価値があります。
答えられない会社と、すっと答える会社では、受ける印象がまったく違います。
3つ目は、昇格や昇給の条件です。
「頑張りを正当に評価します」は形容詞です。
「入社3年で主任、標準的な昇給額は年間いくら」まで言えるかどうかが、
実際の分かれ目になります。
この3つを探すだけで、求人票の見え方はかなり変わります。
数字を探しにいくと、飾りの言葉が自然と目に入らなくなるからです。
数字が出てこないこと自体は、悪ではありません。
まだ整理できていないだけの会社もあります。
ただ、出てこなかったという事実は、必ず覚えておく。
それが判断材料になります。
政治家のスローガンが抽象的なのは、なぜなのか
同じことが、政治の世界でも起きていると私は思っています。
ここからは、私個人の見方です。
日本を力強く前進させる。
美しい国、日本。
日本を取り戻す。
耳に残る言葉ですよね。
私も選挙のたびに聞いてきました。
でも、冷静に読み返すと、中身がほとんど入っていないことに気づきます。
否定しにくい言葉が並ぶとき、私が思い出すこと
「前進させる」と言うなら、どの産業に、いくら予算をつけて、何年後に何を達成するのか。
「取り戻す」と言うなら、どの法律を、いつまでに、どう変えるのか。
そこが語られていない。
語られていないのに、力強く聞こえてしまう。
これは私の感覚ですが、抽象的な言葉ほど、反対しにくいんですよね。
「日本を良くする」に反対する人はいません。
反対できない言葉を並べれば、議論そのものが起きなくなる。



反対できない言葉が並んでいるときこそ、いったん止まるようにしています。
「答えない技術」という視点で読み直す
この感覚には、ちゃんと研究している方がいました。
政治学者の森川友義さんが、『政治家の「答えない」技術』(扶桑社新書)という本を
2026年4月24日に出されています。
この本では、政治家の話し方の型として、
責任をぼかす/論点をずらす/抽象語で煙に巻くという3つが挙げられています。
「議論を加速していく」
「丁寧に説明していく所存です」。
答えていないのに、答えたように聞こえる言い回しですね。
さらに森川さんは、PRESIDENT Onlineの記事(2026年5月20日公開)で、
「否定しにくい言葉」を並べる話法についても分析しています。
国防や子どもといった、反論しづらい主語を使うと、
論理を検証されないまま「この人は真剣だ」という印象で通ってしまう、という指摘です。
漫画と、転職の専門家と、政治学者。
3つの別々の場所から、同じ話が出てくる。
強調されている言葉ほど、中身を確かめたほうがいい。
私はそう受け取りました。
【40代と若手へ】言葉を発する側になった私たちが気をつけたいこと
この読み方、他人を疑うためだけのものではありません。
自分がしゃべる側に回ったとき、そのまま自分に返ってきます。
部下への指示が、抽象語だらけになっていないか
たとえば、部下に「もっと主体的に動いてほしい」と言ったとします。
これ、完全に抽象語です。
言われたほうは、明日から何をすればいいのか分かりません。
「主体的に」ではなく、
「来週の会議の資料を、木曜までに自分でたたき台まで作ってほしい」。
こう言えば、相手の頭に絵が浮かびます。
同じ内容なのに、伝わり方がまったく違う。



私も、こういう言い方をしていないか、正直ひやっとしました。
求人票の話は他人事に見えて、実は自分の口ぐせの話でもあったわけです。
自分の会社を、名詞と数字で語れるか
もうひとつ。
「うちの会社はいい会社だ」と言うとき、
何がいいのかを名詞と数字で言えるでしょうか。
言えないなら、それは会社が悪いのではなく、
私が自分の会社を分かっていないだけかもしれない。
漫画の中で桜木は、自分たちの強みを理解していれば、
アピールは自然と具体的になると言っていました。
裏を返せば、具体的に語れないのは、理解していない証拠ということです。
これは、部下の面談でも、副業のブログでも、そのまま当てはまります。
私にとっては耳の痛い話でした。
【若手へ】面接では、形容詞を具体に直して聞き返す
ここからは、これから会社を選ぶ20代・30代の方に向けて書きます。
面接の場で、会社側から抽象的な言葉が出てきたとき。
その言葉を、具体に直して聞き返してみてください。
「風通しのいい職場です」と言われたら、こう返す。
たとえば直近で、若手の提案が実際に通った例はありますか。
「若いうちから活躍できます」と言われたら、こう返す。
入社3年目の方は、いま具体的にどんな仕事を任されていますか。
失礼な質問ではありません。
むしろ、よく調べてきた応募者だと受け取られることのほうが多いと、
採用に関わる側にいる私は思っています。
大事なのは、その場で答えが出るかどうかです。
すっと具体例が出てくる会社は、日ごろから中身を見ている会社です。
逆に言葉に詰まったり、また別の形容詞で返してきたりする会社は、
そこが弱いのかもしれない。
これは合否とは関係ありません。
あなたが会社を選ぶための材料です。
面接は、選ばれる場であると同時に、選ぶ場でもあります。
