「思考停止」は搾取され続け堕ちていく
読みましたよ。
染井為人 著『悪い夏』

染井為人のデビュー作『悪い夏』は、
累計18万部を売り上げた
第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作です。
生活保護を不正受給する人々や、
現実と向き合わない主人公が描かれるこの物語は、
現代社会の暗い一面を浮き彫りにしています。
この記事では、
そんな『悪い夏』の読書感想とともに、
物語が伝えたいメッセージを深掘りしていきます。
わかりやすく解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
『悪い夏』はどんなストーリー?

生活保護の現実と物語のテーマ
『悪い夏』の中心テーマは
「生活保護の不正受給」ですが
私が受け取ったメッセージは
思考停止して現実から逃げる人々の末路
物語の進行とともに、
主人公の佐々木は不正や裏切りに直面し、
自分の無力さを痛感します。
彼は何も悪いことをしていないが、
逆に何もしないことで大きな代償を払わされます。
この物語は、
思考停止している人々がどれだけ搾取され、
墜落していくかを描いています。
登場人物
主人公とその周囲
- 佐々木守:物語の主人公で、26歳の真面目な公務員。
生活保護受給者の自立を促すために働くケースワーカー。
真面目で正義感が強いが、どこか現実から目を背けている部分があります。
彼は同僚の不正を知り、その真相を探ろうと行動を起こしますが、
それがきっかけで悲劇に巻き込まれていきます。 - 高野洋司:佐々木の先輩で、33歳の既婚者。
不真面目な性格で、生活保護受給者に対して不正を行っている。
高野の行動が物語のトリガーとなり、佐々木を危険な状況に引きずり込みます。 - 宮田有子:佐々木の同期で優秀な同僚。
冷淡でスキがない印象を持たれています。
読者の期待を裏切る形で、物語の終盤には彼女が単なる不倫に走る女性であることが明らかになります。
生活保護受給者たち
- 山田吉男:42歳の生活保護受給者。離婚歴があり、独身。
- 林野愛美:22歳のシングルマザー。4歳の娘、美空と共に生活保護を受けて暮らしています。
思考停止で搾取され続ける典型的な女。 - 莉華:林野愛美と同じくシングルマザーですが、育児を全くせず、子どもは実家に預けています。元暴走族のレディース出身で典型的なクズのバカ女
裏社会の人物
- 金本龍也:風俗店の店長であり、地元のヤクザの構成員。彼は元々東京新宿で派手にやっていた男で、現在は地方で暗躍しています。金本の存在が、物語に一層の暗さと危険を加えています。
読もうと思ったきっかけ

以前、「正体」という作品を読んで
非常に面白かった経験がありました。
その時から、染井為人さんの筆致に惹かれ
彼の他の作品にも興味を持つようになりました。
特に、染井為人さんの描くキャラクターの深みや、
緻密なストーリーテリングに引き込まれたのです。
そのため、「悪い夏」にも期待を抱き、
あらすじを一切知らずに読み進めました。
「悪い夏」読書感想
無知は搾取され続ける
『悪い夏』は、現代社会の暗い側面を描きながらも、
その背景にある個々の人間の複雑な心情や
行動を丹念に描写し、
読者に考えさせる作品です。
物語を通じて、
現実と向き合うことの重要性や、
自分の行動の結果を見据える必要性を改めて感じさせられました。
登場人物の鬱展開とバッドエンドの連鎖
物語の進行とともに、
登場人物たちの鬱展開がどんどん進み、
最終的にはバッドエンドへと向かいます。
染井為人の筆力によって、
このような重いテーマでも
サラッと読めてしまうという
独特の手腕が発揮されています。
特に主人公の佐々木守は、
何も悪いことをしていないにもかかわらず、
何もやらなかったからこそ
非常に大きな代償を払うことになります。
「なんで?」って思わないことで没落していく
思考停止している人間の利用と墜落の典型的な話
『悪い夏』の物語は、
思考停止している人間がどんどん利用され、
そして墜落していく典型的な話でした。
登場人物たちは全員バカかクズです。
本来の物語の主旨とは
大きく違う受け取り方をしていますが
私は「無知は搾取され続ける」という教訓を強く感じました。
特に22歳の林野愛美は
結局「考えたくない」「考えるのがしんどい」という
理由だけで
すべての思考を放棄します。
結果的にさまざまな人間から搾取され、利用されます。
ラストがひどい
物語のオチが大味すぎる印象でした。
期待していた伏線の回収や
物語の解決が、
予想外の「大爆発」で締めくくられてしまいました。
まちがいなく途中までの物語の流れは
めちゃくちゃ面白いんです!!
特に、主人公の佐々木守が
どうやって問題を解決し、
物語をどう着地させるのか、
唯一の賢者宮田が
裏でどの様に立ち回っていたのか?
気になりながら読み進めました。
しかし、
物語の終盤での展開は少々強引であり、
全体的に残念な印象を受けました。
ようするに「夢オチ」のような
「爆発オチ」でした。
みんな集合して
バタバタと醜態を晒して
最終的には一網打尽。
ドラえもんのオチと同じですよ笑
個人的には、
賢者で探偵役だと思っていた宮田が
実はただの「不倫相手に怨念を抱く女性」だったことに失望しました。
探偵役としての期待が高かったため、
彼女が物語の核心に密かに関与し、
すべてを解決してくれる展開があれば良かったと思います。
2025年映画化決定!
「悪い夏」が映画化されることが決定しました。
監督は城定秀夫、脚本は向井康介が務め、
公開は2025年を予定しています。
映画としてどのように再現されるのか非常に楽しみです。
城定秀夫監督は、
『ビリーバーズ』や
『女子高生に殺されたい』などの
作品で高い評価を得ており、
彼の独特な視点と手腕が
「悪い夏」に
どのように反映されるのか期待が高まります。
脚本を手がける向井康介氏は、
『ある男』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞しており、
彼の緻密な脚本がこのサスペンスにどのような深みを与えるのか注目です。