はじめに:前回のおさらいと今回のテーマ
米国株に投資している方、 前回の第8回は読みましたか?
読んでない方は、 ぜひ先に第8回を読んでください。
前回、OpenAIが77兆円もの資金を集めて、
ビッグテックの「平和な時代」を 終わらせたという話をしました。
https://www.papastablog.com/sp500-openai-bigtech-ai-war-investment-future
今回第9回では、その続きとして ビッグテックが実際にどう動いているか、
そして私たちのS&P500投資に どう影響するのかを解説します。
私自身、積立NISAで S&P500にフルベットしています。
最近、資産が増えて驚いていますが、
同時にある不安も感じ始めました。
なぜなら投資インフルエンサーの 五月さんが書かれたnote 「S&P500神話の終わる時 ~インデックス投資バブルの形成過程と、AI投資がもたらす株式市場のレジームチェンジ~」 を読んで衝撃を受けたからです。
この連載では、その内容を 初心者にも分かりやすく解説しています。
S&P500は万能ではありませんが、 凡人には今も最適解だと私は思っています。
ただし「神話」として盲信するのは危険。 このシリーズを通じてリスクを知り、 賢い投資判断をしていきましょう。
全10回にわたり、米国株式市場(特にS&P500)の現状と背景を、積立NISAで投資している方にも分かりやすく解説しています。投資インフルエンサー五月さんのnoteを基に、初心者向けに再構成した内容です。
第8回のおさらい:OpenAIが壊した平和
これまでのビッグテックは仲良く稼いでいた
まず前回の復習から。
ビッグテック5社 (Apple、Microsoft、Google、Amazon、Meta)は、 それぞれが自分の領域で稼いでいました。
- スマホ → Apple
- パソコンのOS → Microsoft
- ネット検索 → Google
- ネット通販 → Amazon
- SNS → Meta
お互いの領域に踏み込まないから、 無駄な価格競争も起きない。
これを「平和の配当」と呼びます。
この平和がS&P500を 押し上げてきたのです。
OpenAIが全員の敵になった
ところがOpenAIが現れて、 全員の領域に攻め込んできました。
- Googleの検索を奪う
- Microsoftのオフィスソフトを置き換える
- Metaの広告ビジネスを脅かす
しかもOpenAIには 守るべき既存ビジネスがないから やりたい放題できるのです。
2025年1月、OpenAIは 「スターゲート計画」で 77兆円もの資金を集めました。
ビッグテックにとって これは生き残りをかけた戦争。
もう引けない状況になったのです。
CEOたちの決意表明:もう後戻りできない
- GoogleのCEOが「過小投資のリスクは劇的に大きい」と明言
- MicrosoftのCEOが既存事業を捨てる覚悟を示した
- MetaのCEOが数千億ドルの無駄遣いを許容する発言
経営トップが語る「過小投資のリスク」
2025年に入ってから、 ビッグテックのCEOたちが 驚くべき発言を連発しています。
GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイ氏は
「過小投資のリスクは過大投資のリスクを 劇的に上回る」と述べました。
つまり投資を出し惜しみするくらいなら、 出し過ぎる方がマシだという意味。
普通、会社の経営者は 無駄遣いしないように気をつけるのに、
「出しすぎてもいい」と 言っているのです。
MicrosoftのCEO、 サティア・ナデラ氏の発言は さらに衝撃的でした。
彼は自社が築いてきた 最大のビジネスが将来 重要でなくなる可能性を認め、
過去の遺産を守ることより AIで勝利する方が重要だと語りました。
今めちゃくちゃ稼いでいる事業が 将来ダメになるかもしれないと 自ら認めたのです。
そしてMetaのマーク・ザッカーバーグ氏も 負けていません。
数千億ドルもの資金を 無駄にすることは残念だが、
その逆つまり投資を渋ることの方が リスクは高いと述べています。
多少お金をドブに捨てても、 AI競争に出遅れるリスクよりマシ。
これらの発言は全て2025年に 語られたものです。
もはや「ブレーキを踏む」という 考えが頭にないことを意味しています。
実際、彼らは決意表明通りに 巨額のキャッシュを調達し、 投入し始めました。
少なくとも向こう1〜2年のスパンでは、
計画されている半導体の生産や データセンターの建設が 確実に実施されるでしょう。
それ以上先のことは未知数ですが、
その過程で人類史上最大規模の 設備投資が行われる可能性は 極めて高いと見られます。
史上空前の設備投資:数字で見る異常事態
- 2025年第3四半期で4社合計1,125億ドル
- 前年同期比で驚異の80%増
- 5年前のわずか6倍という異常な伸び
3ヶ月で16兆円という驚異の金額
実際の数値を見てみましょう。
2025年7月から9月、
たった3ヶ月間におけるGoogle、 Amazon、Meta、Microsoftの 4社合計の設備投資額は 前年同期比で77%増の 1,125億ドル(約16.5兆円)に達しました。
想像できない金額ですよね。
5年前の2020年頃には 同期間でわずか200億ドル程度。
それがたった5年で
約6倍に膨れ上がったのです。
ここで重要なポイントがあります。
この1,125億ドルという金額は、
同四半期の4社合計の営業利益 1,070億ドルさえも上回っています。
「営業利益」とは 簡単に言うと「その期間に稼いだお金」のこと。
つまり稼いだお金より多くのお金を 投資に使っているのです。
さらに各社は2026年に向けて 設備投資額を一段と増やす 計画だと言われています。
Alphabet、Meta、Microsoft、Amazonの 4社は設備投資の見通しを引き上げ、
2025年には合計で3,800億ドル以上、 日本円で約55兆円に達すると 予想されています。
昔の姿とは全く違う重厚長大企業に
会計の知識がある方なら お分かりでしょうが、
営業利益を上回る設備投資が 長期間続くのは非常に異例。
しかもこれは広告宣伝費ではなく 設備投資です。
もはや古き良きITプラットフォーマーの
「アセットライト(資産軽め)」な姿は どこにもありません。
「アセットライト」とは 大きな工場や設備を持たずに 稼げるビジネスモデルのこと。
IT企業の魅力は まさにこの軽さにありました。
ところが今、彼らの投資計画は 電力会社や鉄道会社も 真っ青の超ヘビー級に 変貌してしまいました。
前回の第8回で説明した 「平和の配当」を享受していた 軽やかなビッグテックは もういないのです。
何に使っているの?GPU購入の仕組み
投資の中身はNVIDIA製のGPU
設備投資の主な内訳は もちろん半導体チップです。
特にNVIDIAなどのGPU (グラフィックス・プロセッシング・ユニット)が 大きな割合を占めています。
GPUはもともとゲームの映像を きれいに表示するためのチップでしたが、
今はAIを動かすのに 超重要なパーツになっています。
前回の第8回で説明したように、 OpenAIとビッグテックの戦争における 武器がこのGPUなのです。
減価償却の仕組みが将来の利益を圧迫する
ここで会計の話を 分かりやすく説明します。
GPUの耐用年数 (どれくらいの期間使えるか)は 企業にもよりますが 概ね5〜6年程度。
会計のルールでは、 100万円の機械を買ったら その年に全額費用として 計上するのではなく、
5年使えるなら5年に分けて 毎年20万円ずつ費用として 計上します。
これを「減価償却」と呼びます。
つまり仮に営業利益と 同等額の設備投資を行っても、
当期の費用として計上される分は その1/5程度にとどまります。
「じゃあ問題ないじゃん」と 思うかもしれませんが、 ここからが怖いのです。
今年100億円のGPUを購入 → 今年の費用は約20億円
来年も100億円のGPUを購入 → 来年の費用は約40億円 (今年分20億円+来年分20億円)
再来年も100億円のGPUを購入 → 再来年の費用は約60億円 (今年分20億円+去年分20億円+今年分20億円)
このように、投資を続けると 年々減価償却費が累積的に増大し、 2〜3年後には損益計算書に 深刻なダメージを与え始めます。
予測されているように 今後数年にわたり このレベルの投資を継続すれば、
会社の決算に重くのしかかってくるのです。
私たちの投資への影響:EPSと株主還元
- AI売上が期待通りでなければEPSが圧迫される
- フリーキャッシュフローの減少リスク
- 自社株買いや配当への悪影響
AI売上が期待通りでなければEPSが圧迫される
もし今後、相当なハイペースで AI関連の売上が伸びなければ どうなるでしょうか。
各社のEPS(1株利益)の伸び率は 抑制されるでしょう。
会社が稼いだ利益を 発行済み株式数で割った数字です。
株価って基本的に このEPSと連動するんです。
EPSが上がれば株価も上がるし、
EPSが下がれば株価も下がりやすい。
さらに圧迫された フリーキャッシュフロー (会社が自由に使えるお金)は 株主還元の原資を蝕むでしょう。
自社株買いと配当が減るリスク
「株主還元」とは 株主に利益を返すこと。
主に2つの方法があります。
自社株買い 会社が自分の株を買い戻すことで、
これをやると1株あたりの価値が上がり 株価が上がりやすくなります。
どちらも株主にとって 嬉しいことですよね。
ところが設備投資にお金を 使いすぎると、
自社株買いや配当に回す お金が減ってしまうのです。
これが過剰投資になるとは 断言できません。
十分なAI関連の売上が立てば 問題はないからです。
しかし仮に期待外れに終われば EPSは壊滅的な減少を 見せるかもしれません。
そこまで行かずとも 少しでも減価償却負担に 耐えかねれば、
今の市場のバランス (高い株価評価)を 揺るがすには十分です。
GoogleのCEOも認めるリスク
実は、Googleのピチャイ氏自身も リスクを認めています。
彼はインターネットバブル時代を 引き合いに出しながら、
過剰投資の要素はあるが AI自体の重要性は変わらないと 述べています。
つまり短期的には 調整があるかもしれないけど、
長期的には価値があるという見方です。
ただしそれは「AIが成功すれば」の話。
失敗したときのリスクも 同時に存在するのです。
誰も予想していなかった構造変化
OpenAIが引き起こしたチキンレース
こんなことになるとは 誰も予想していなかったはず。
というか
明らかにこの争いは 誰一人望んでいませんでした。
なぜなら
前回の第8回で説明したように、 ビッグテックは今まで 「平和」に稼いでいたからです。
お互いの領域に 踏み込まないから、 無駄な競争もなかった。
ところがOpenAIが現れて、 全員の領域に攻め込んできた。
そうなるとGoogleが投資すれば、 Microsoftも投資しなきゃいけなくなる。
Microsoftが投資すれば、 Metaも投資しなきゃいけなくなる。
もう完全にチキンレースです。
誰も止められないのです。
市場は平穏だが構造は変わり始めている
それなのに今日も、 世界中の投資家は インデックスファンドを買い続け、
市場は何事もないかのように 平穏を保っています。
しかし空前の設備投資が 始まった時点で、
この理想的な市場(S&P500)を 形作ってきた構造の逆回転は 始まっています。
これまでの好循環はこうでした:
- ビッグテックが「平和の配当」で高い利益を出す
- その利益で自社株買いをする
- 株価が上がる
- S&P500が上がる
ところが今は:
- ビッグテックがAI投資にお金を使う
- 自社株買いに回すお金が減る
- 株価の上昇が鈍化する?
- S&P500の上昇も鈍化する?
この構造変化に 人々がいつ気づくか。
それが問題なのです。
あとは人々がいつ それに気付くかの問題に 過ぎません。
S&P500投資家が取るべき心構え
- パニックにならず冷静に状況を見る
- ただし盲信せずリスクを理解する
- 分散投資の重要性を再認識
パニックにならず冷静に状況を見る
投資は自己判断で自己責任です
私たち個人投資家は どうすればいいのでしょうか。
まず大切なのは パニックにならないこと。
S&P500は歴史的に見て 優れた投資対象であり、
今すぐ全て売却する必要は無いです(私の意見)
私自身もS&P500への投資を 続けるつもりです。
なぜなら凡人の私たちにとって、
今でも最適解だと思うから。
他に何に投資すればいいか 分からないですし、
個別株を選ぶなんて もっと難しいですよね。
ただし「神話」として盲信しない
しかし同時に「神話」として 盲信するのも危険です。
「S&P500は絶対安全」とか、
「放っておけば絶対に増える」とか、
そういう思考停止はダメ。
今回解説したような 構造的なリスクが 存在することを理解し、 冷静に判断する必要があります。
短期的には調整があっても、 長期的にはAI技術が実用化されて また成長する可能性もありますからね。
分散投資と情報のアップデート
また分散投資の重要性を 改めて認識すべきでしょう。
S&P500への投資を続けながらも、 他の資産クラスへの分散を 検討するのも一案です。
例えば:
- 債券への分散
- 新興国株式への分散
- 金などの実物資産への分散
最も大切なのは 定期的に情報をアップデートし、 市場の変化を追い続けること。
この連載のような情報に アンテナを張り、 自分なりの投資戦略を 持つことが重要です。
あと余裕があるなら、 半導体関連企業も注目です。
NVIDIAや日本の東京エレクトロンなど。
この戦争で一番儲かるのは、 武器を売っている会社ですからね。
まとめ:構造変化の始まりを認識しよう
ビッグテックによる 史上空前のAI設備投資。
その規模は営業利益を 上回るほどで、
今後2〜3年かけて 減価償却費として 損益に影響を与え始めます。
もしAI関連の売上が 期待通りに伸びなければ、
EPSの圧迫や株主還元の減少という 形で投資家に影響が及ぶでしょう。
前回の第8回で説明した OpenAIの77兆円プロジェクトが、
ビッグテックをこのような 巨額投資競争に駆り立てたのです。
S&P500を支えてきた 「平和の配当」は終わり、
最強企業群が初めて 全面的なAI投資競争に 突入したという事実。
この構造変化を理解し、 神話として盲信せず、 しかしパニックにもならず、 冷静に投資を続けること。
それが私たち個人投資家に 求められる姿勢だと考えます。
次回最終回では、 今後のマーケットの行方について、 タイミング予測の難しさと 著者自身の大局観を述べて この連載を締めくくります。
S&P500への投資を続けながら、 どのような心構えで 市場と向き合うべきか。
一緒に考えていきましょう
